明治44(1911)年・昭和10(1935)年の亥年年賀状から、2019年の年頭ご挨拶にも喜ばれそうなデザインをピックアップ。アンティークな色調で描かれた干支や花鳥風月、懐かしさとともに斬新さも感じさせる意匠など、レトロ年賀の枠を超えて現代にも受け継ぎたい逸品たちです。
ハートによく似た「ゐのめ(猪の目)」から、愛嬌たっぷりに顔を出すイノシシ。この「ゐのめ」は、日本に古くからあった形です。一説には“威の目”を意味し、権威あるものにつける高貴な模様でした。2つ並ぶとイノシシの目に見えることから「猪の目」という字が広まったんだとか。庶民にも馴染み深い模様になったのは江戸時代半ば。大小2つの「ゐのめ」が、愛に満ちた新年を運んでくれそうな年賀状です。
ウグイスが小筆をくわえてお祝いを綴っています。「オメデトー」のカタカナにも、レトロな愛らしさが香る1枚。美しい鳴き声で春の到来を告げるウグイスは「春告鳥」とも呼ばれ、日本人に親しまれてきました。万葉集でも春のモチーフとしてよく歌われ、「梅に鶯(うぐいす)」は“2つのものがよく似合って調和している”様子をたとえることわざにも使われます。この年賀状でも梅の花が上品なアクセントになっていますね。
洋装したイノシシの紳士と、エプロンを首にかけたウリ坊が、テーブルを囲んでお食事中。下に書かれた文字は「A happy new year」かと思いきや……よく見ると意味不明の綴り! 英語を使える人が少ない当時、海外のカードを適当に真似て間違えてしまったのでしょうか。そんなところもレトロっぽくてご愛敬ですが、2019復刻版年賀状ではこのナゾ英語を割愛。お好きなメッセージを書き入れてくださいね。
「コレハ……亥イ御正月デス」と、「良イ(いい)」と「亥イ」をかけたダジャレ年賀状。明治44年のお正月に送られたはがきです。眼鏡をかけモーニングを着こなすお洒落なイノシシと、脱力を誘うゆるい駄洒落とのミスマッチ感。表情や影、アングルからも、なんともいえない味わいが漂ってきますね。2019年お正月用の復刻版デザインでは、ダジャレ部分がオーソドックスな賀詞に差し替えられていますよ。
扇に描かれた海辺の松、白梅の枝、六色の飾り紐。雅な日本的モチーフが詰まったなかに、アール・ヌーヴォーのテイストも感じさせるレトロ年賀状。明治時代だからこそ描き出された、美しい和のデザインですよね。空と浜をイメージさせる、背景の模様も印象的な1枚です。どこか懐かしく、それでいて新鮮な魅力にあふれていますね。
この年賀状が送られた明治44(1911)年には、梅の花と満月をセットにしたデザインが多数。この年、お正月に開かれた歌会始のテーマ(御題・勅題)が「寒月照梅花」だったためです。冬の夜、冷たく冴え渡った月の明かりに照らされて、輝く梅の花。木の幹に当たる光の描写も印象的ですね。厳しい寒さのなかにも確かな春の兆しを感じさせ、静かな力強さに満ちています。
京都と大阪にまたがる山崎の町は、歌舞伎や文楽の人気演目『仮名手本忠臣蔵』で知られる場所。五段目「山崎街道の場」にイノシシが登場することから、この辺りでは「山崎の猪」という名前でイラストのような土人形の土産物が売られていました。『仮名手本忠臣蔵』の内容から“運の強いイノシシ”として人気を博したそう。猪の郷土玩具といえば、真っ先にこれを思い浮かべる方も多かったようです。
「賀正」の文字の中を、イノシシのシルエットが猪突猛進! 金色の「賀」の中に描かれているのは、イノシシが好んで食べるドングリでしょうか。イノシシの影に描き込まれた草木のモチーフも、縦の線がアクセントになってストライプのような効果を生み出していますね。イノシシの白い牙もまた、デザインにシャープな印象をもたらしています。こんな年賀状が手元に届いたら、送り主の趣味の良さを感じてしまいそう。