そもそも「お正月」ってナンだ?
「お正月」と「年神(歳神)さま」
私たちの間でお正月は家族で新しい年を祝う行事として広く認識されていますが、元来お正月は「年神さま」を自宅にお迎えする行事であることを知っていますか?
「年神さま」とは、お正月の神様で「歳徳神(としとくじん)」「正月様」とも呼ばれており、「トシ=稔(みのり)」ということを意味し、五穀豊穣や稲の神様といわれています。また別の説としては、山のほうへ昇って行った祖先の霊が神となったともいわれており、いずれにしろ「年(歳)」や「稔(みのり)」を司る神様を家族全員でお迎えして、新年を歓び、五穀豊穣に感謝してお祝いをするのがお正月なのです。
【キチンと準備編】お正月を迎えるためのイロイロ
年末に大掃除を行う意味ってあるの?
もちろんキレイに掃除をして気持ちよく新年を迎える、というのが大きな理由でしょう。日頃の掃除ではなかなか手入れが行き届かないような場所も、大掃除の際に一気に片付けて、隅々まで清潔になった我が家でお正月を過ごしたいという感覚は当然といえば、当然ですね。
しかし、この年末の大掃除は個人的な感覚とは別に宗教的な意味もあり、歴史も古いということを知っていますか?
年の瀬、有名なお寺や神社で大々的に行われる「煤払い(すすはらい)」の映像をニュースなどで見たことがある人は多いと思います。日本人にとって季節を感じる行事のひとつとしてニュースなどで報道されることも多いのですが、この「煤払い」が年末の大掃除のルーツといわれているのです。
お正月を迎える準備として大掃除をする風習は平安時代からあったようで、江戸時代にはいり、江戸城大奥で12月13日に行われていた「煤払い日」の慣習が民間に広まったことにより「煤払い」すなわち「年末の大掃除」が一般的に行われるようになったと考えられています。
1年の汚れを隅々まで落として清めることにより、年神さまがより多くのご利益を持ってくるとされており、煤払い後には「煤払い祝い」といってお団子やお餅を食べる風習もあるようです。
ちなみにこの12月13日(地域によっては12月8日)というのは、お正月を迎えるための物忌み(災い等と避けるために身を清めて自粛する期間)がこの日から始まるということで、「正月迎え」「ことはじめ」とも呼ばれ、お正月に年神さまをお迎えする一連の慣習や準備をはじめる日でもあるのです。
「門松」や「しめ縄飾り(正月飾り)」「鏡餅」を飾る意味
お正月の飾りといえば、家の門に飾る「門松」や「しめ縄飾り」「鏡餅」がすぐに思い浮かびますが、これらにもそれぞれ飾る意味がちゃんとあります。
まず「門松」ですが、松は神様にとても縁が深い木とされており、年神さまをお迎えする目印として家の門に左右一対(雌松と雄松)を飾るのが慣わしです。もともとは、シンプルに松だけを飾る「松飾り」でしたが、室町時代に入り生命力や長寿の象徴ともされる竹が取り入れられるようになり、現在のような「門松」になったといわれています。
この竹については、当初は水平に切り出した筒形しかありませんでしたが、徳川家康が、武田信玄に敗北した「三方ケ原の戦い」のあと、この悔しさを忘れないよう斜めにそぎ落として先をとがらせた形にしたといわれており、現在でもこの斜め切りの竹飾りを多く見かけるようになっています。
他には、斜めに切った切り口が笑顔にも見えることから「笑門来福(笑う門には福来る)」ということで縁起が良いと好まれているということもあるようです。
「しめ縄飾り(正月飾り)」についても、門松と同じく神様がおいでになる神聖な場所を示すものとして玄関付近に飾ります。一般的な「しめ縄飾り(正月飾り)」は、「しめ縄」「紙垂(かみしで)」「裏白(うらじろ)」「橙(だいだい)」「譲り葉(ゆずりは)」などを一緒にしたものです。これらにはそれぞれ意味があります。
・「しめ縄」
俗世と神の世界を隔てる結界を張り、不浄なものが入らないようにする役目があります。
・「紙垂(かみしで)」
神様が降りてこられたことを表します。
・「裏白(うらじろ)」
シダ植物の葉で表側が緑色、裏側が白いものです。「裏(=うしろ)が白い」というところから、後ろめたいことや暗がりのない、清廉潔白なことを表します。
・「橙(だいだい)」
果実が一本の木にいくつも生る姿から、ひとつの家系が代々(=橙)まで栄えることを願う意味があります。
・「譲り葉(ゆずりは)」
植物の葉は、古い葉が落ちて新しい葉が生えてくることから、「譲り葉=(家督を)譲る」つまりは、家系を絶やさず子孫繁栄を願う意味があります。
このように、神聖なものやおめでたいものを集めて飾ることにより、神様が降りてきてくださるのにふさわしい、清らかな場所を家の中につくるのです。
家の中に飾るものとしては「鏡餅」がありますね。「お正月=鏡餅」というくらい代表的な飾りつけですが、この鏡餅にも大切な意味があります。
お正月にお迎えする年神さまですが、家の中での居場所が必要になります。鏡餅はその名の通り、ご神体を表す「鏡」の役割があるお餅で、年神さまの依代ともいうべき場所なのです。
鏡餅に年神さまが依りつくとその御魂が鏡餅に宿るといわれており、年神さまの御魂が宿った鏡餅の餅玉を家長が「御年玉」「御年魂」として家族に分け与え、それをいただくことにより新しい年の幸せや健康を願うのが「お年玉」のルーツといわれています。
鏡餅を飾る場所ですが、そこが年神さまの居場所となるわけですから、なるべく家族みんながあつまる場所や神棚、仏壇などの大切な場所がよいでしょう。飾る個数にも特に決まりはないので、玄関ホールや書斎、子ども部屋など年神さまにいらしてほしい場所に飾ってOKです。
飾りつけの期間には決まりがあるの?
お正月飾りの準備や飾る期間にも決まりがあります。まず鏡餅や門松などの飾りつけをする日にちですが、絶対に避けるべきなのは12月29日・31日となります。
これは、29日は「二重(=にじゅう)苦(=く)」や「苦餅(苦持ち)」「苦松(苦待つ)に通じ、31日は「一夜飾り(前日の飾りつけ)」が葬儀の飾りつけと同じことから、年神さまをお迎えする準備には相応しくないとされているからです。
「正月迎え」「ことはじめ」と呼ばれる松の内の始まる日が12月13日ですので、この日から28日までの間にお正月を迎える準備を終わらせるようにしましょう。
松の内の期間をいつからいつまでにするかは、いくつかの解釈があります。「飾りつけをする期間=松を飾っている期間」を「松の内」とする場合、松の内は12月13日から1月7日までの間ということになります。「松の内の始まりは元日から」と思っている方は多いですが、それ以外の考え方もあるわけです。
関東では1月7日までが松の内で1月11日に鏡開きをするのが一般的ですが、関西や一部地域などでは1月15日までを松の内とし、鏡開きも同じ1月15日に行うこともあるようです。
「年越しそば」を食べるのにも理由がある!
さて、お正月の準備がすべて整ったらゆっくりと家族で一年最後の日12月31日を迎えます。ここで忘れてはいけないのが「年越しそば」です。大晦日に年越しそばを食べるのにもちゃんと意味があります。
もともと江戸時代の商家では忙しい晦日(毎月の最後の日)には、手早く簡単に食事を済ますためにそばを食べる習慣があったようで、これが大晦日の年越しそばの由来という説があります。
また、そばは細く長いことから「長寿」や「健康」「家運長命」などへの願いも込められています。さらに、そばはうどんなどよりも切れやすい特徴があるので「一年の不運や災いを断ち切る」という意味もあるようです。
年が変わるまでに食べきるようにしないと縁起が悪いといわれているので、片付けなども含めてスッキリと余裕をもって年越しをしましょう。
【お正月の過ごし方】知れば知るほど深~いニッポンのお正月!
単なるお酒じゃない!本当の「お屠蘇(おとそ)」と正しい飲み方とは?
お正月にほろ酔いで歩いているオジサンを見かけて「お屠蘇気分でゴキゲンだね~」なんて表現したりしますが、お正月にいただく「お屠蘇」は普通のお酒ではないことを知っていますか?
お屠蘇はお正月をお祝いするお酒ですが、御神酒と同様に清酒をお屠蘇としていただいている人も多いのではないでしょうか。
本来のお屠蘇は単なるお酒ではなく、漢方薬などを浸した薬膳酒です。その由来は古代の中国で大晦日に漢方薬などを酒に浸して置き、それを不老不死の薬酒として元日の朝に年少者から年長者へ順にまわして飲んでいくという風習から始まったとされています。
年少者から年長者へまわしていくのには「若い生命力を年長者へ分け与える」という意味が込められているそうです。一年の邪気や悪気を「屠り(ほふり)」、命を「蘇らせる(よみがえらせる)」ということから「お屠蘇」と呼ばれているのです。
では、正しいお屠蘇はどのように作るのでしょう?実はそんなに難しいことでもなく、ドラッグストアーなどで手軽にお屠蘇を作れる商品を購入することができます。
「屠蘇散」や「屠蘇」と品名は様々ですが、生薬や漢方薬のコーナーで見つけることができるでしょう。たいていの場合、数種類の漢方薬を混ぜ合わせたものをティーバック状の袋にしてあるので、それを赤酒や清酒、みりんなどに一定時間浸しておけば出来上がります。
飲み干した盃を年少者から年長者へまわしていくのが本来のいただき方ですが、もちろん子どもや車を運転する人、妊婦さんなどお酒を飲めない人は口をつけるだけの形式的なもので済ませてOKです。
「お雑煮」「おせち料理」の意味
お屠蘇を済ませたら、お雑煮をいただきます。お雑煮は年神さまにお供えしたお餅をいただくための料理で、元旦最初に汲む「若水(わかみず)」を使って作るのが正式とされています。年神さまからいただく年魂が宿ったお餅をお雑煮でいただくことにより、新しい年を健やかに過ごすための生命力をいただくという考え方だそうです。
お雑煮の作り方や具材については実に郷土性が豊かで、一般的に白味噌仕立ての関西風やすまし汁の関東風とされているものにとどまらず、ありとあらゆる味付けやタイプがあります。地域差だけでなく、各家庭でも作り方が全く違っていたりもしますから、お正月にお呼ばれしたときにいただくお雑煮が自分の家のものとは違う味で新鮮に感じることもあるでしょう。
次に「おせち料理」です。おせち料理は「御節料理」として、もともとは季節の節目を祝う日(節句、節会など)に神様にお供えする「御節供料理(おせちくりょうり)」を指します。年間を通して何度もある節句ですが、そのなかでも特に大切な日がお正月ということで、お正月の御節供料理だけが残ったということのようです。
年神さまにお供えするお供物料理ですから、縁起の良いものや願いが込められている食べ物が多く、めでたさが重なるように重箱に入れます。年神さまにお供えしたものを家族で分かち合いながらいただき、一年の健康と幸せを願うのがおせち料理なのです。
おせち料理に保存食が多いのにはいくつか説があり、かまどの神様にお休みいただくため、あるいは日頃忙しい女性がお正月くらいは料理を作ることなくゆっくり過ごすことができるように、などといわれています。
「初詣」に出かけよう!
お屠蘇やおせち料理をいただいたら、「初詣」に出かけましょう。初詣は、新年を迎えて初めて神社やお寺などに参詣することで、その年の健康や幸せを祈願します。
初詣においては特に決まりやルールがあるわけではありませんが、初詣に出かけるのであれば自宅にある古いお札やお守りなどを持参して、神社に奉納するのがおすすめです。
お参りするべき期間としては、松の内に済ませるのがよいでしょう。もちろん、松の内を過ぎるとなにか縁起が悪くなるというわけではありませんので、ご都合の良い日にお出かけください。
「七草粥」「鏡開き」「どんどん焼き」でお正月を締めくくる
一年の無病息災を願う「七草粥」
松の内の最後の日でもある1月7日に一年の無病息災を願って食べる「七草粥」ですが、なぜこの日にお粥をいただくのでしょう?これにもきちんと意味があり、昔の人々の知恵と願いが込められています。
もともと1月7日は「人日の節句」という五節句のひとつにあたり、七草粥はその行事で食べる儀礼食でもあるのです。昔の中国では元日から7日までにそれぞれ鶏・狗(いぬ)・猪・羊・牛・馬・人をあてはめて占いをし、新年の運勢を見立てていました。人の日である1月7日に七種類の若菜を入れた汁物を食べて無病息災や立身出世などを願う風習があり、これが奈良時代の頃日本に伝わったのが七草粥の由来とされています。
江戸時代に五節句が定められたことにより広く浸透していった七草粥ですが、それだけでなく、冬場に不足しがちな野菜を食べて栄養補給することや、お正月におせち料理やお酒などを楽しんだあとの体をいたわるということもあり、人々が大切にした慣習だとも考えられています。
「鏡開き」と「どんどん焼き」で年神さまをお見送りしましょう
新年にお招きした年神さまの居場所だった鏡餅を割って食べるのが「鏡開き」です。一般的には1月11日(関西や一部地域では1月15日)に行われます。これは松の内が終わり、年神さまをお見送りして仕事始めをする区切りでもあるのです。
年神さまがいらした鏡餅には年魂が宿っているとされていますので、開いた鏡餅をお汁粉などに入れて食べることにより一年の健康と幸せを願います。
同じく年神さまをお招きするために飾っていた門松やしめ縄飾り(正月飾り)も松の内が明けたら片付けますが、どうやって処分したらよいか悩んだことはありませんか?そのままゴミに出してしまうのも気が引けますよね。
これにもきちんとした処分方法があります。それが「どんどん焼き(左義長)」です。住宅街がひしめく都会ではあまりみかけなくなりましたが、地方や郊外では子ども会などの行事として行われているところが多いようです。小正月である1月15日やその前夜の14日に行うことが一般的で、町内の門松やしめ縄飾りを子どもたちが集めてまわり、それを一か所でまとめて焚きあげます。
これは門松やしめ縄飾りを燃やすことにより、その炎で年神さまをお見送りする意味があるようです。また、書初めで書いた書物なども一緒に燃やされることがありますが、炎が高く燃え上がると習字が上達するといわれています。
ただ、最近では近隣の環境問題なども関係してどんどん焼きを行わない地域が増えてきています。個人で正月飾りなどを処分する場合は、お酒や塩で清めてから新聞紙などにくるんで一般ゴミとして出せばOKです。
まとめ
スマホやテレビ、インターネットが驚くほどのスピードで発達しつづける現代。そんな時代に生きる私たちが、日本の伝統や昔の生活などに触れられる数少ない機会が「お正月」です。
お正月は、家族にとってとても大切な行事であるとともに、私たちが古来より大切に受け継いできた日本人としての原点を感じられる行事でもあります。自分たちの文化をきちんと理解し、それを楽しみながら次のお正月を迎えましょう。